賛否両論の作品(ネタバレ注意)
ミステリー作品として結構な有名な作品をいまさら読み終えました。なんて古風で素敵なタイトルなんだ、と思いわくわくしていたらいきなり下品な表現から始まってドン引き(笑)
叙述トリックを使っているということは事前に知っていたけど何を騙しているのかはわからなかったのでそれを推理しながらページをめくりました。まあ叙述トリックというのはほとんどパターンが決まっているので消去法で考えれば当たってしまうものです。
それで僕は主人公の年齢に関しての記述が少ないなと感じ、主人公とその妹だけは老人なんじゃないかと推測。ただ愛子とキヨシとさくらまで老人だとは思いもしませんでした。だから仕組みこそわかりましたがそれなりにびっくりしましたよ。でもAmazonのレビューの平均が星3つなのも納得の出来。間違いなく評価が真っ二つに分かれる作品だろうな、という印象でした。
ミステリーなのか……それとも……
なんというかミステリー小説を読んでたらいきなり自己啓発書に変わった気分です。
主人公が呉田と対峙するシーンから雲行きが怪しくなってくるんですよね。呉田がいきなり老人に対する怒りをいきなりぶちまけるんですよ、それが「不自然にもほどがあるだろ!」と言いたくなります(笑)優れた犯罪組織というのはヘマを起こさないから恐ろしいのであって、いくら相手が老人だからと言って拘束もせずに組織のトップがベラベラと秘密を語るのは現実味がなさすぎるなあ、と思います。そもそも組織は節子に対して何も教えなかったわけですから。
しかしこのあからさまに不自然な老人に対するスピーチは最後の最後でやっと活きるわけです。主人公が「老人だって何でもできる!人生捨てたもんじゃない!」みたいなことをいきなり言い出してようやく辻褄が合いました。ああ、これって老人に対してのメッセージがメインなんだと。勝手な予想ですが、本作を絶賛している人はあまりミステリーを読まない人で酷評している人はその逆ではないかと考えます。
主人公がヤクザに潜入していた話は不要という意見もありますが、僕はむしろあっちのほうが好みです。というかあの世羅の事件及びその解決があるおかげで辛うじて本作はミステリー小説と呼べると思います。
叙述トリックについて
主人公は老人なのかな、と思わせるシーンが2つほどありますね。まず蓬莱倶楽部の無料体験会に若者が行ったって怪しまれて追い返されるだけですよね。あの手の商売のターゲットはほとんど高齢者ですから。それから主人公が千絵のいるスナックにておしぼりで顔を拭いていましたが、これもおっさん丸出しですね(笑)僕は若者に分類される人間なので年長者向けの伏線(ジャイアンツ優勝やらくらくホンなど)はほとんど気づけませんでしたね。
ただ納得がいかない点も。それは主人公とキヨシが蓬莱倶楽部の本部に初めて潜入するとき、キヨシがタバコを喫おうとするとき主人公が「高校生は喫っちゃいかん」と言って取り上げる場面。別に喫っていいんじゃない?(笑)定時制高校に通う成人の学生は喫煙を禁止されているなんて聞いたことないなあ。
この本の気持ち悪さ
本作が気に食わない人はよく「読者を騙したいだけの本」なんて言ったりしますが、僕はそうは思いません。作者が登場人物を若者に見せるためにミスリードした理由は老人も若者も大差ないということを伝えたかったのではないでしょうか。主人公も言ってましたよね、「気持ちひとつだ。やる気があれば年齢なんて関係ない」って。
ただこの本読み終わった後は正直気持ちが悪いなって思いました(笑)彼らが若者っぽく見えるのはバイタリティがあるからではなく人として未熟だからいい大人に見えないだけです。若者は若者でも全国大会優勝を目指すために日々トレーニングを重ねる部活動の生徒や志望校合格に向けて猛勉強をする受験生など夢に向かって励んでいる姿を真似するべきでしょう。ところがキヨシは勉強に励んでいるとは言い難いですし、主人公に至っては女遊びを繰り返し、挙句の果てには窃盗までする始末……そんなところまで若者仕様にしなくていいんだよ!まともなのはせいぜい愛子くらいでしょう。
ただ僕はこういう気持ち悪さが結構好みだったりします(笑)
歌野晶午の作品は初めて読みましたが、他の作品も読んでみたいですね。本作にはそれほどハマれませんでしたが、おそらく一生忘れることはない内容でしょう。